第一夜~姑獲鳥の女
第一夜~姑獲鳥の女
私は目の前のドアを手前に引いた。やっと見つけた・・・そう思いながら。
「いらっしゃいませ、Bouz Barへようこそ」
「あぁ、やっと、やっとみつけた。話に聞いたとおりだわ」
「話に聞いたとおり?。どういうことでしょうか?・・・まあ、立ち話もなんですから、どうぞお入りください。外は雨ですし・・・」
私は中に入った。右手にL字型のカウンターだけのお店。狭い店内。カウンターの中には陰気くさいマスターが一人。話に聞いたとおりのお店だった。マスターはこう言うはず。
「どうぞ、お好きな席にお座りください」
やはり・・・と思いつつ、私はカウンターの真ん中に座った。マスターが立っている正面である。
「ご注文は、何になさいますか?」
「メニューは・・・・」
「そこに」
マスターが示したメニューはどこにでもあるドリンクの名が記された、ありきたりのメニューだった。
「いえ、これじゃなくて・・・・、私、ある人に教えられてきたんです。この店には裏メニューがあって」
「ある人に?、どんな話を伺ったのですか?」
そう、あれは2週間ほど前のことだった・・・・。
私は大きな失恋をして、ある店のカウンターで酔っていた。泣きながら・・・・。
「お嬢さん、何泣いてますのん」
その声のほう見ると、そこにはちょっと小太りの中年男性が座っていた。
「隣、あいてます?」
その男は、図々しくも私の隣に座った。
「男に振られよったんかいな」
「関係ないでしょ」
「そないな冷たいことを・・・。まあ、ええわ。そやけど、そんな泣いてるお人をほっとくわけにもいかへんしなぁ。どないしよか」
「放っておいてください。どうせ、あなたにはどうにもなりませんから」
「あぁ、そうでっか。・・・・どんなつらいことがあったか知らんけど、話をしたら楽になることもおまっせ」
「いいんです。私が知りたいことは・・・あなたには答えられないでしょうから」
「そんなもん、聞いてみなわからへんやないの」
男はしつこかった。
「じゃあ、聞きます。私の子供は・・・・なぜ、あの子は・・・・望んでいたのに・・・・生まれてこれなかった・・・。なぜ、どうして?。私は一体どうすればいいの?。答えてください!」
「あ、あぁ、そういうことでっか。そりゃ・・・・無理な話やな・・・・」
「ほら、やっぱり。あなたって最低ですね」
私はそう言って席を立とうとした。
「ちょっと待ちなはれ。せっかちやなぁ~。僕は答えられへんけど、それに答えを出してくれる人は知ってまっせ」
その言葉に私は振り向いた。
「あのな、この町の裏通りあるやろ。その裏通りに小さな店があるんよ。名前は確か・・・・Bouz Bar・・・とかいうたかな。そこのマスターやったら答えてくれるよ、きっと」
「ほ、本当ですか?」
「あ、あぁ、たぶんな。いや、絶対答えてくれるよ」
「その店、どこにあるんですか」
「どこって、せやから裏通りの・・・・陰気くさい店やねん。説明しにくいところでな。ドアがあって、うっすらとそのドアに店の名前が書いてあるんよ。で、中に入ると右手にカウンターしかない店なんよ。カウンターの中には陰気くさいマスターが一人おんねん。葬式にでも行ったような顔したマスターや。でな、裏メニュー頼むんや。そしたら・・・」
「そしたら?」
「なんやしらん、不思議な飲み物が出てくるんよ。こう言うとったわ。『今のあなたの心を表した飲み物です』とな。で、そっからやねん。マスターが話をしてくれはるわ」
「場所を詳しく教えてください。電話番号とかも」
「そんなん知らんねん。僕も偶然入ったさかい。裏通りの・・・そや、真ん中辺や。目立たん黒っぽい汚いドアや。でも、そう言えばこうもいうとったな。『縁があれば見つけられます。あなたは縁があったんですよ』ってな」
「で、あなた悩みとか解決したの?」
「そらもう・・・もちろんや。やらなあかんことも教わった」
「探してみる」
「そうしなはれ」
そうして私はBouz Barを探し続けたのだ。
「あぁ、あの関西弁の男性ですか。お元気そうで、なによりです」
「だから、裏メニューというのを出してください」
マスターは無言で古い木札を一枚出してきた。
「な、なにこれ・・・」
「この木札のことは聞いてないんですね」
「えぇ、何も・・・」
「よろしい。彼は約束を守ったようだ」
「約束?」
「あなたにも約束を守っていただく。守れますね?」
マスターの目が鋭く光った・・・ように見えた。その気迫に押されて
「あ、はい、守ります」
と私は答えていた。どんな約束かも聞かずに。
「この木札・・・見たことがありませんか」
「そういわれれば・・・まるでお風呂屋さんの下駄箱のカギのような・・・」
「その通りです。これは京都のある潰れた銭湯の下駄箱の鍵札です。この鍵札にはある呪いがかかっています」
「呪い?」
「そう、この木札を握って10数えると、あなたの心を表した特製カクテルの名前が浮かんできます」
「ま、まさか・・・・」
「やってみなさい」
私は言われるままに木札を握って10数えた。すると・・・・。
「いや、なにこれ・・・・」
私は、思わず木札を放した。木札が震えだしたのだ。やがて木札には文字が浮かんできた。
「な、何て読むの?。・・・獲・・・鳥・・・?」
「あぁ、姑獲鳥・・・・・うぶめと読みます」
そういうとマスターはサッと後ろを向いてしまった。そして
「この木札のことは口外しないようにしてください。約束です。でないと、呪いがあなたに災いをもたらしますから」
「あ、さっきの約束って・・・」
「そうです。この木札のことを口外しない、という約束です」
「わ、わかりました」
私は不安になっていた。呪いとか災いとか・・・マスターは陰気くさいし。変なものを飲まされるのではないか、とんでもない店に入ったのではなかろうか・・・・そんな不安が頭をよぎった。
「大丈夫です。毒など入ってません。ちゃんとしたカクテルです」
そういって振り返ったマスターが差し出した飲み物は・・・不思議な色合いをしたものだった。
「きれい・・・だけどなんだか毒々しいし・・・ちょっと悲しい色ですね」
そのカクテルは、下のほうが赤く・・・・血の色のような赤さだった・・・・上のほうは柔らかな白色だった。
「優しそうな白・・・どうやってこんな柔らかな色が出せるのかしら・・・・。それなのに下のほうは真っ赤。まるで・・・血の色・・・・」
そこまで言って私は嫌なことを思い出した。そう、あの日、私の大事な・・・・。
「血の色ですよ、その赤は。あなたが流した血の色です」
そう言ったマスターの顔は・・・・死人のようだった。
「このカクテルは姑獲鳥(ウブメ)といいます。図らずも子を亡くしてしまった母親の怨念・無念を表したのがこのカクテルです。ですから、下のほうは血の色・・・流れた子供。上のほうの白は、子供をやさしく抱きたいという思いが羽毛となっている、それを表しているのです。ウブメは子供をやさしく抱きたいという思いから、妖怪の鳥になってしまった母親なんですよ。今の・・・・あなただ」
「あ、あぁぁぁぁ・・・・」
私は泣き崩れた。
「あの人は・・・初め嫌がっていたんです。子供ができたことを。でも私は産みたかった。そのうちに彼も喜んでくれるようになったんです。嬉しかった・・・。でも、あの日、彼は私とは結婚できないと言い出しました。親が反対していると・・・・。それで子供は堕してくれと・・・・。私は怒りました。ひどいじゃないか、約束が違うじゃないか、私も子供も守るって言ったじゃないか、何があっても反対されても結婚するんだって言ったじゃないかって・・・。そしたら彼は『事情が変わったんだ』と、それだけ言って私の前から去っていった。・・・・そのあとすぐのことだった。私が流産したのは・・・・。
血の海だった。そう、こんな色。あの時の血の色だわ・・・・。私の子供・・・・返して・・・返して・・・・」
「ウブメもそう言って、毎日泣いているんですよ。私の子供を返して、返して・・・・と」
私はマスターを見上げていった。
「すごいわ、このカクテル。ホント、今の私ね。あの木札って・・・いったいどんな呪いがかかっているのかしら。私の心をぴったり当てるなんて・・・・悲し過ぎるじゃないの!。なんで、どうして私ばかりがこんな目に、どうして私の子供があんなことに・・・・、教えてよ。あの男は言ってたわ。ここに来れば教えてもらえるって」
「いいでしょう、教えてあげますよ。でも、あなたにとってつらい言葉かも知れませんが、それでも聞きますか」
「もちろんよ。そのために私はここを探したのよ」
「では、教えてあげましょう」
マスターの眼が冷たく、悲しそうに光ったような気がした。
「あなたのお子さんは、この世に産まれてくるのが嫌だったのですよ」
「えっ?」
マスターの言葉に私は驚いた。
「嫌だったのですよ。そんな男の子供であることが。あなたを苦しめたくなかったのです。あなたの心を歪めるのが嫌だったんだ」
「ど、どういうこと。私は子供を産みたかったのよ。いい加減なことを言わないでよ」
「もし、あなたがお子さんを産んでいたとしましょう。想像してみてください。あなたは心からその子を可愛がることができますか?」
「もちろんよ。もちろん可愛がるわよ。当然でしょ。愛した人の子供なのよ」
「その愛した人は、あなたを裏切りましたが・・・・」
「あっ・・・でも、子供は別だわ」
「そう言いきれますか?。あなたはお子さんの顔を見るたびに、裏切った彼を思い出すことになりますよ。しかも、次第にお子さんの顔は彼に似てくる。また、たとえば彼の消息をその後聞いたとしたらどう思います?。心底、その子を可愛がることができますか?」
「・・・・・」
「自信がありませんね。よく想像してみてください・・・」
マスターはそういうと、私を悲しそうな眼で見たのだった。私はその眼に吸い込まれるような気がして・・・。
私は想像してみた。
彼が裏切った・・・・私は一人で子供を産んだ。産むなと言われていたのに逆らってまで。逆らった以上、話し合いは決裂。言い争いに疲れてしまうだろう・・・私の性格からすれば、「慰謝料なんていいわよ!」って叫ぶだろうな。子供が産めるなら何にも要らない!ってね。
でも子供の顔を見れば安らぐはずよ。そうよ、子供は天使よ。・・・・あぁ・・・ダメだわ。この子はあの男の血を引き継いでいるのよ。もし、この子が男の子で、あんな人間になったなら・・・・。あんな男に似てきたらどうしよう・・・。
私を捨てた男。私を裏切って違う女と一緒になった男。今は幸せな家庭を築いている男・・・・許せない。許せないわ、そんなの許せない。復讐してやる。幸せな家庭なんか壊してやる。私はそういう女よ。私を裏切った代償は大きいわ。・・・・許せない、何もかも許せない。同じような顔をした子供があっちの家庭にもいるのよ。あっちの家庭はニセモノよ。ホンモノはこっち。ねぇ、あなた、そうでしょ。何か言ってよ。あんなに愛し合ったじゃないの。あなたが求めていた本当の家庭はこっちよ。ほら、あなたの子よ・・・、見てよ、可愛がってよ・・・・ほら、ほら・・・・。
『そんな子供は知らない。お前、誰だ』
あぁぁぁぁ~、許せない!、お前もあの女も、結婚を壊したお前の母親も、そっちの家庭の人間、全部が許せない!。壊してやる・・・・そうか、まず手始めにあの男の血を引き継いだ・・・・あぁ、ダメ、ダメ、そんなこと・・・・。
いつの間にか私は大声を出して泣いていた。
「そ、そうかもしれない。でも・・・・あぁ、そんなの嫌だ。でも・・・・」
「どうです、素直に可愛がることは・・・・」
「できない・・・かも知れません」
「それを見越していたんですよ、あなたのお子さんは。子供は敏感ですからね」
「そ、そんな・・・あり得ないわ」
「彼があなたのもとを去った時、あなたは思ったはずです」
「な、何を・・・・」
「あなたは知っていますよね。あのとき思ったことを」
「あのとき・・・あのとき、私は今考えたようなことを・・・・考えたとでも・・・・?」
「瞬時に」
「考えたのかしら・・・・考えた・・・・うそ、そんな・・・・あぁ、そうだ、思い出したわ!」
「封印が取れたようですね」
「あぁ、嫌だ!、私、あのとき・・・・」
「言ってしまったほうが楽になりますよ」
それは、悪魔のささやき・・・のようだった。
涙が止まらなかった。私はなんて醜い女・・・・。
「私・・・・確かに彼を怨んで・・・すべてを壊してやるって・・・・。あぁ、私が悪いんだ。全部、私が悪かったんだ」
「彼が去ったことも・・・・あなたに原因があるのですね」
「えぇ、こんな女ですもの・・・・嫌になりすよね」
私は無理に笑顔を作った。
「私、重い女なんですよ、きっと。彼にとっては、重すぎたんです。ふっ、バカみたい」
もう化粧もボロボロだった。
「醜い私。何もかも汚れている・・・・。そもそも、結婚だって私から求めたんです。でも、彼は煮え切らなかった。親が反対するからって。でも、彼は私を求めた。だから、私は・・・妊娠を・・・。そうすれば結婚できると思ったのよ。浅墓だった・・・。でもね、彼も一度は『親に対抗する』って言ってくれたのよ。それなのに・・・・。簡単に裏切ってくれるんだもん。もう怨むしかないわよね。
私、昔からそうなんです。子供の頃から・・・・。欲しいと決めたものは何がなんでも欲しいんです。どんな手を使ってでも手に入れたい、と思っちゃうんです。そうやって今までは何でも手に入れてきたんです。逃げられたのは初めてだわ。
そうやって、無理やり手に入れたものでも、いらなくなることってあるんですよね。いらなくなってしまって、ずいぶん捨てたわ・・・・。ふっ、今までのバチがあたったのね」
「バチ・・・ではないでしょう。手に入ったのは・・・無理やりでもなんでも・・・縁があったからでしょう。縁がなかったら、無理強いしても手には入りません」
「縁?」
「そう、縁です。あなたのもとに来る縁、来ない縁。一度来ても離れる縁。あるいは留まる縁。人と人のつながり、人とモノのつながりも、縁があるかないかに関わってくるんですよ。今回は縁がなかったんです」
「彼とは縁がなかった・・・ってこと?」
「そう、縁がなかったんですよ、初めからね。それを無理に引きとめていた。ただそれだけです。その引きとめた綱が切れただけ、それだけなんですよ」
「切れただけ・・・。縁はなかった、初めから・・・・」
「よく振り返ってみなさい。欲しいものは何でも手にれてきた、とおっしゃいましたが、そうでしょうか。手に入らなかったものもあるでしょう。あきらめたものもね」
「そうかしら・・・・あぁ、そうだわ。確かにあきらめたものもある。その代りのものを手に入れたけど・・・・。あぁ、そっかそれって代用品か・・・・」
「そう代用品。ということは、縁のなかったものもある、ということです」
「そういうことか・・・。でも、彼は私を愛してくれたわ」
「あなたを・・・じゃなく、あなたの身体を・・・・じゃないですか」
また一筋涙がこぼれた。
「ひどいことをはっきり言うんですね。でも、初めからわかっていました。そうよ、彼は私の身体がよかっただけなのよ。わかっていたの、そんなことはわかっていたのよ・・・・。でも・・・」
「認めたくなかった」
「認めるのが怖かった。身体だけでもいい。それでも彼と一緒にいたかった・・・。いつか、心も求めてくれると期待していたのよ。・・・・でも、そんなの無理よね。壊れるに決まっているわよね」
「そんな関係のところに産まれたいですか?」
そうだ、そこだったんだ、問題は・・・・。
「私なら・・・・いや・・・かな。ううん、絶対、嫌だわ」
「あなたの血を半分受け継いでいますからね」
「そっか・・・・。じゃあ、そう考えても仕方がないか。私の子供は、自分の意志でこの世に産まれることを拒否したんですね」
「賢明なお子さんです。稀に見る・・・ね」
「それってすごいかも。超能力者だったかも・・・・。でも、産まれてこなきゃ意味ないわ」
「産めばいいじゃないですか。まだチャンスはあるでしょ」
「どういうこと?」
「あなたのお子さんは、産まれることを拒否しただけです。次があれば、産まれてくるでしょう」
「次・・・・あるかしら?」
「産んでいい環境が整えば、帰って来ますよ。意志の強いお子さんのようですから。環境が整えば、生まれ変わってくるでしょう。ですから、まずは環境を整えることです」
「そんなチャンス、まだ私に残ってるかしら」
「あるでしょ。枯れた婆さんじゃないんですから」
「本当にそう思いますか?」
「大丈夫ですよ。チャンスはあります。まだまだこれからです。ただし・・・」
「ただし?」
「あなたの性格、少し直したほうがいいようですね」
「あぁ、痛いところ突かれたわ」
「ま、今回のことで、何が悪いかよくわかったとは思いますが」
「えぇ、わかりました。私、わがままなんです。もっと、相手の気持ちを考えないといけませんよね」
「人を好きになってしまうと、そのことを忘れますから、よく気をつけてください。いつも、相手の気持ちを考えることを忘れないようにね。異性・同性に限らず・・・」
「あぁ、私ってついついのめり込んでしまうから・・・」
「こうと思ったらとことん・・・でしょ」
「うん、そうなんです。目の前しか見えなくなるんです」
「そういうとき、ブレーキが必要ですね」
「どうすればいいのかしら」
「自分で注意するしかありません。それと、そういうときは、友人が注意してくれるはずですが」
「あぁ・・・、確かにね。注意してくれるわ。でも・・・・」
「聞きませんからね、あなたは」
「あははは、そうなんです。あ、なんか、久しびりだわ、笑ったの」
「笑顔になれば、素敵な女性じゃないですか。まだまだ十分いけますよ」
「またまたうまいことを言って・・・・。本当にそう思います?」
「本当にそう思いますよ。もったいないですよ。つまらないことはサッサと忘れ、前向きに生きましょう」
「うん、そうします。うん、なんだかできそう・・・。あ、そうだ。もう一つ教えてほしいですけど」
「なんでしょうか」
「わかるかなぁ・・・。亡くした子供ってどうすればいいんですか」
「供養したほうがいいですよ。水子供養ですね」
「それって、迷信じゃないんですか」
「祟るとかいうのは迷信です。そうじゃなく、生きていた人間が亡くなると葬式をするように、一度宿った命ですから葬式の代わりになるような供養をしてあげるのが当たり前、と思いますが」
「あぁ、そう言う意味ですか・・・・。それなら納得できます。そうですよね、一度は宿った命ですもんね」
「そう、祟りがあるから水子供養するんじゃありません。亡くなった命を弔うために供養するんです」
「わかりました。じゃあ、そうします。あぁ、なんだか、すっきりしました」
「そうですか・・・・もうほかに聞きたいことは?」
「大丈夫です。なぜ子供が生まれなかったか・・・、なぜこんな目にあったか・・・、彼が去った理由・・・、これからどうすればいいか・・・全部わかりました。ここを見つけてよかった」
「そう言っていただけると光栄です」
「この不思議なカクテルも美味しかったし・・・。ちょっと不気味だったけど・・・。あの・・・・」
「なんでしょう」
「この店のこと、他の人に教えていいですか」
「といいますと?」
「友達でも悩んでいる子がいるんですよ。だから、ここに行きなさいって」
「そう言う方がお一人で来るなら結構ですよ。あなたが連れてくるのは勘弁してください」
「はい、わかりました。それと、約束ですよね」
「はい、そうです。それを守ってください」
「それと・・・また来てもいいですか?。悩みがなくても」
「はい、構いませんよ。一度、この店を見つけた方は、また来ることができます。もし、もうこの店を見つけることができない場合は・・・」
「縁がなかった・・・と思えばいいんですよね」
「そうです」
「ありがとうございました。また来ます。そのときは・・・違う話を聞きたいです」
「わかりました。では、そのときをお待ちしています」
マスターの顔は、もう陰気くさくなかった。
その後、私はまだあのBarへは行ってない。なんだか忙しくて行けないのだ。友人からは、
「変ったね。明るくなったわよ。それに・・・強引じゃなくなった」
と言われるようになった。
「どうしたの?。何かいいことあったの?」
とも。そういうときはこう答えている。
「素敵なBarがあって、そこで悩みを聞いてもらったのよ。もし、悩んでいることがあったら教えてあげるわよ」
するとたいていの友人はこういう。
「へぇ~、そんな素敵なBarなら、今日行きましょうよ。案内してよ」
「だめなのよ。一般の客は入れないの。悩みを持っている人で、縁がある人じゃないと、見つけられないの」
「ふ~ん、へんな店ね。なんて言う名前?」
「あのね、Bouz Barっていうのよ」
そう、秘密のBar、「Bouz Bar」。また、悩み事ができたら絶対に行く。こじれる前に・・・・。
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