1巻18話~羅城門 玄象


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1巻18話~羅城門 玄象 


『今昔物語集』
「玄象という琵琶が鬼に取られた話」。

平安中期の村上天皇の御代、唐伝来の琵琶の名器「玄象」が突然、消え失せてしまいます。ある晩、その音色を耳にした源博雅が、夜の平安京を南、南へとその音色を頼りに探し歩き、やがて、羅城門に至ります。

琵琶の名器「玄象」を奏でる順徳天皇

 今は昔、村上天皇の御代に、玄象(げんじょう)という琵琶が、突然、消え失せてしまった。これは皇室に代々伝わってきた由緒ある宝物であったが、このようになくなってしまったので、天皇がひどく嘆かれ、

「このような貴重な伝来物が、朕の代になくなってしまうとは」

と悲嘆なさるのも道理である。


「これは人が盗んだのであろうか。ただ、人が盗み取ったなら、自分では持っていることができない品であるから、天皇を心よく思わない者がいて、盗んでこわしてしまったのであろう」

と疑われた。

 その頃、源博雅という人が殿上人にいた。この人は、管弦の道の達人であり、この玄象が消え失せたことを嘆き悲しんでいた。ある晩、人が寝静まった後、博雅が清涼殿に宿直していると、南の方角から、あの玄象を弾く音色が聞こえてきた。とても不思議に思えたので、

「ひょっとして、聞き間違いか」

と思って、あらためてよく耳を澄まして聞いてみると、まさしく玄象の音色である。博雅がこれを聞き間違えることはないので、大いに驚き怪しみ、人にも告げず、直衣姿に、ただ一人沓だけを履き、小舎人童(こどねりわらは)一人を伴って、衛門府(えもんふ)の衛兵の詰所を出て、南のほうに行くと、さらに南からこの音が聞こえる。

「きっと近くだろう」

と思って行くと、朱雀門(すざくもん)に至った。やはり同じように南のほうから聞こえる。そこで、朱雀大路を南に向かって行く。

「これは、人が玄象を盗んで 楼観に登って、ひそかに弾いているに違いない」

と思いながら、急いで行き、楼観ところに着いて聞くと、なおも南のほう、ごく近くから聞こえる。そこで、さらに南に行くと、ついに羅城門(らじょうもん)にまで至った。

 門の下に立って聞くと、門の上の層で、玄象を弾いているのだった。博雅はこれを聞いて、奇怪に思い、

「これは人が弾いているのではあるまい。きっと鬼などが弾いているのだろう」

と思った途端に、弾きやんだ。しばらくすると、また弾く。その時に、博雅が言った。

「これは誰が弾いておられるのか。玄象が数日前に消え失せてしまい、天皇が捜し求めておいでになるが、今晩、清涼殿にて聞くと、南の方角からこの音色がした。それで、尋ねて来たのだ」

 すると、弾きやんで、天井から降りてくるものがある。博雅は不気味に感じ、その場から離れて見ていると、玄象に縄を付けて降ろしてきた。そこで、博雅はこわごわこれを取って、内裏に帰り参上して事の次第を奏上し、玄象を献上したので、天皇は大変感激されて、

「鬼が取っていったのだな」

と仰せられた。これを聞いた人は、皆、博雅を褒めたたえた。

 その玄象は今、朝廷の宝物として代々伝えられ、内裏に収められている。この玄象はまるで生き物のようである。下手に弾いて弾きこなせなければ、腹を立てて鳴らない。また、塵が付いてそれを拭い去らない時にも、腹を立てて鳴らない。その機嫌の良し悪しがはっきりと見えるのである。いつであったか、内裏が焼失した時にも、人が取り出さずとも、玄象はひとりでに庭に出ていた。

 これは、いずれも不思議なことである、とこう語り伝えているということだ。

村上天皇の御代の平安時代の話。



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