"宇治拾遺物語 壱"の記事一覧

【休題閑話】第三巻の(渚の独り言)後記

 「わたくし版『宇治拾遺物語』現代語訳」も、無事に第三巻を終えられました。 ありがとうございます、ありがとうございます。 全部で15巻ありますので、5分の1が終ったことになります。 20% まだ、これだけ……。 第三巻の適当訳後記この巻は、何となく、「宇治拾遺らしいもの」が多い気がしました。 平安時代…

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巻三 (52)狐家に火つくる事

    今は昔。 甲斐の国で、さるお屋敷に奉公する侍が、 夕暮れ時、お屋敷を出て帰宅途中、狐に行き会った。  これを追いかけ、この侍が弱めに鏑矢を射ると、狐の腰に命中。 狐は丸くなって鳴き叫び、腰を引きずって草むらへ逃げ込むところを、 侍、さらに鏑矢を持って追いかけるが、 狐は腰を引きつつ逃げて、もう一度射かけ…

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巻三 (51)一条摂政歌事

    今は昔、一条摂政は東三条殿の兄にあたり、 ご容姿はもちろん、お心遣いもやさしくて、 様々な風流ごとに通じてお楽しみになることも多かったが、 あるとき、ちょっとしたいたずら心を覚えられた。  御名を隠して「大蔵の丞・豊蔭」と名乗り、 さるとても高貴な姫君へ、お手紙を遣わせたのである。  思いは通…

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巻三 (50)平貞文、本院侍従の事(後)

  そうして、とうとう、侍従がやって来た。「こんな雨の中、よくお越しになれましたね」 と言うので、平中、「これくらいで来られないのは、思いが足りないのですよ」 などと言い交わし、やがて平中は側へ寄ることができた。  髪を手探りすると氷を押し当てたように冷たく、 やわらかな感じが喜ばしくてならず、 その後も何やか…

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巻三 (50)平貞文、本院侍従の事(前)

 今は昔。 兵衛佐・貞文のことを、平中(へいちゅう)と言った。  きわめて女好きで、宮中の女性はもちろん、人の娘という娘で、 忍んでみない相手は無いというほど。 さらには思いを込めた手紙を送られて、心を許さない女性など無いというほどだった。  さて、本院侍従という女性は、村上天皇の御母后にお仕えしていた。 思…

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巻三 (49)小野篁、広才の事

  今は昔、小野篁(かたむら)という人がいた。 嵯峨天皇の時代のある日、内裏に札が立って、そこに、『無悪善』 と書いてある。  嵯峨天皇は、篁を呼び、「読め」 と仰せになったが、「読むことは読めますが、恐れ多く、申し上げることはできません」「とにかく申せ」 と、帝が何度も仰せになるので、「――さが無くて善からん…

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巻三 (48)雀報恩の事(下)

  さて十日ほど経って、この雀たちが戻ってきた。 婆さんは喜び、とにもかくにも、「口に何かくわえているかや」 と見れば、瓢の種を一つずつ落として、飛び去った様子。「案の定じゃ!」 と喜び、拾って三カ所へ植えたところ、 木はするすると生えて、たいそうな大きさに育った。  婆さんは大笑いして、子供に、「大し…

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巻三 (48)雀報恩の事(中)

   そうして、数ヶ月が過ぎて、「そろそろ、中も良い具合になっただろう」 と見ると、ちょうど良い感じになっているから、取り下ろし、 口を開けようとしたところ、何だか瓢が少し重たい。  おかしいと思いつつ、ともかく口を開けてみると、 何か、別の物がいっぱい入っている様子。「何があるんだ」 と中味を少し外へ…

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巻三 (48)雀報恩の事(上)

  今は昔、春ごろのこと。 うららかな陽気の日に、 60歳くらいのおばあさんが、庭へ出て、衣類の虫とりをやっていた。  と、そこへ雀がやってきたので、家の子供たちが、わあっと駆け寄り、 石を拾ってこれにぶつけて、雀の腰を折ってしまった。 羽をばたつかせて逃げ惑うところを、上空からカラスが狙っているようなので…

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巻三 (47)長門前司女、葬送の時本所にかへる事

  今は昔。 長門の前司という人には娘が二人あり、姉には定まった夫があった。 妹の方は、若いときに宮中へお仕えしていたが、 その後は実家に戻り、定まった夫もなく、時々通ってくる男がある程度だった。  さて姉妹の家は、高辻室町の辺りにあり、父母が亡くなってからは、 屋敷の奥へ姉夫婦が住み、 妹は南の表の、西側の妻戸口…

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巻三 (46)伏見修理大夫・俊綱の事

  これも今は昔。 伏見修理大夫・俊綱は、宇治大納言・頼通さまの息子だったが、 大納言さまにたくさんの子供がいたため、養い親を替えられて、 橘俊遠という人の子供となった。 そして蔵人の役に就き、15歳で尾張の国司に任じられた。  さて、その俊綱が任地の尾張の国へ向ったときのこと。 当時の熱田神宮の神様はたいへん…

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巻三 (45)因幡の国別当、地蔵作さす事

  これも今は昔。 因幡の国、高草郡野坂の里というところに、大きな寺があった。 国隆寺という。 ちかながという前の国司が建てた寺であるが、 そこの年老いた者が語り伝える話で――。  当時の寺の別当、つまり一番偉い住職が、 あるとき家に仏師たちを呼んで、地蔵様の仏像を造らせていた。 だがこの別当。 妻が間男に…

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巻三 (44)多田しんぼち郎等の事

  これも今は昔。 多田満仲の郎等に、猛々しくて乱暴な奴がいた。 動物たちを射殺すのを得意としていて、 野に出ては鹿を狩り、山に入っては鳥を獲って、 わずかばかりの善根も施すことをしなかった。  さてこの郎等があるとき、狩りをしようと野へ出て、 馬を走らせ、鹿を追っていた。 矢をつがえ、弓を引いて駆け…

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巻三 (43)藤六の事

 今は昔、藤六という、歌詠みの名人がいた。 さてこの藤六が、ある下人の家に忍び込み、 誰もいないなと思いながら、鍋の煮物をすくっていると、 水汲みを終えた下人の女房が、 表から戻ってきた。  戻った女房。 藤六がそんなふうに鍋のものをすくい、食っているものだから、「やい、どういうわけで人もいないところへ入り…

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巻三 (42)同人、仏事の事

  今は昔、伯の母が、永縁僧正という高僧を招いて、 つくらせた仏の供養を行ったときのこと。  僧正の前、いろいろと寄進物を並べた中に、紫色の薄物に包んだものがあった。 開けてみると、  朽ちけるに長柄の橋の橋柱 法のためにも渡しつるかな   ――朽ちてしまった長柄橋の柱ですが、仏法のためにもお渡しします。  …

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巻三 (41)伯母の事(後)

 そのうちに、都へ乳母が訪れるようになった。 越前守の家の者たちは、この乳母をうとましく思ったが、今更どうしようもないと、 やがて乳母の訪問をを許すことになった。  そして「伯の母」つまり大姫御前の妹が、この乳母に歌を託した。  匂ひきや 都の花は東路に こちのかへしの風のつけしは  ――都の花は東路に匂いま…

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巻三 (41)伯母の事(前)

 今は昔、多気の大夫という豪族の当主が、 常陸の国から、ある訴訟のため上京したとき、 滞在先の向いに住む、越前守という人のもとで、説法会が開催された。  ちなみにこの越前守は、「伯の母」とも呼ばれ、 世間からたいそう尊ばれていた歌詠み名人の、父親。 越前守の妻は伊勢の大輔で、そこには姫君たちがたくさんいた…

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巻三 (40)きこり、歌の事

今は昔、ある木こりが、 山の管理人・山守(やまもり)に斧を取り上げられてしまい、「困ったな。つらいな」 と思いながら、蔓草の杖をつきながら、とぼとぼと山を下りようとしていた。  これを見た山守。「何かうまいことを言ってみろ。そうしたら斧を返してやる」 と言うので、木こりは、   悪しきだに 無きはわり無き世の…

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巻三 (39)虎の鰐取りたる事

これも今は昔、 筑紫の人が、商売のため、朝鮮半島の新羅に渡った時のこと。 商売を終え、さて帰ろうと、舟で山の際をくだった商人は、 水を補給しようと河口に舟を泊めた。  船端からは、海面に山の影が映っている。 高さは、三、四十丈だから、100メートルとか、150メートルくらい。 その山の上に、身を屈めた虎がこちら…

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巻三 (38)絵仏師良秀、家の焼を見てよろこぶこと

これも今は昔、仏様の絵を描く仏師で、良秀という人がいた。  ある晩、良秀の隣の家から火が出た。 風が強く吹いて、すぐに延焼しそうだったから、良秀は、ひとまず表へ逃げた。 家の中には、人から依頼された仏画もあり、 まだ着物も身につけることのできない妻や子供も残っていたが、 知らずに逃げ出した良秀は、そのまま家の正…

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