巻五 (70)四宮河原地蔵の事

   これも今は昔。 山科のとある道ばた、四の宮河原というところに、「袖くらべ」という、商人の多く集まる場所があった。  そこに住む、とある下人が地蔵菩薩をつくったが、 開眼供養まではせず、櫃に入れたまま、 自分の家の奥の間へしまい込んでしまった。 そうして、日々の営みに紛れてしばらく経つうちに忘れ…

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第54話~しっぺ太郎

 むかしむかし、ひとりの旅のお坊さんが、ある村をとおりかかりました。 みれば、田うえどきだというのに、だれひとり、田ではたらいているものがおりません。 ふしぎにおもっていると、その村の庄屋(しょうや)さんの家の前に、おおぜいの村人たちが集まって、なにやらヒソヒソはなしあっています。「はて、なんじゃろ?」 お坊…

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立てば出ます

 ある侍が、使いの途中で便所に行きたくなりましたが、いっしんにがまんして両国(りょうごく)までやって来ました。 両国まで来れば、どこかで用がたせるだろうと思い、ほうぼう便所を探しましたが見当たりません。 ふと橋のそばを見ると、菜(な)っぱ売りが青い顔で座っておりましたので、侍はかけより、「この辺に、便…

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休題閑話 第四巻(渚の独り言)後記

コメント  宇治拾遺物語が4巻まで終りました。 飽きっぽい性分なので、ここまで続いていることに我ながら驚いてますが、これも、毎日、たくさんの訪問者数があるためです。ありがとうございます、ありがとうございます。 さて全15巻のうちの4巻ですが、全198話で考えると69話まで済んだので、すでに3分の1は訳し…

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巻四 (69)慈恵僧正戒壇築かれたる事

    これも今は昔、 慈恵僧正は近江の国・浅井郡の人であった。  さて、比叡山に戒壇を築く許しが下りたものの、 人足を揃えることが出来ず、未だ、戒壇を築くことができなかった折のこと。  浅井郡の郡司と、慈恵僧正とは、師匠・檀家の間柄で親しくしていたため、 ある仏事に、慈恵僧正が招かれた。 そして僧膳に提…

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第9話~もちの好きな山姥(やまんば)

   むかしむかし、あるところに、小さな村がありました。 山あいの村なので、お米がろくにとれません。 それでも村の人たちは、お正月が近くなるとそのお米でもちをついて、神さまにそなえたり、自分たちで大事に食べたりしていました。 ところがこの村の山には、もちの大好きな山姥(やまんば)がいて、もちつきが終わ…

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第53話~ハリセンボンになった嫁さん

 むかしむかし、富山のある港町に、息子のお嫁さんをいつもいじめるお母さんがいました。  ある日の事、隣の部屋で自分の裁縫箱(さいほうばこ)をのぞいていたお母さんがお嫁さんにむかって、「あんた、わしの針山から針をとったね! 一本、たりないんだよ!」と、言いました。 むかしの裁縫道具は、女の人の大切な嫁入り道具…

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あごとかかと

 江戸の街角で、二人の武士がけんかを始めました。「このやろう」「なにお・・・」 二人は刀を抜くと、「ていやー」「とりゃー」と、切り合いました。 そして一人があごを切り落とされ、もう一人が足のかかとを切り落とされたのです。 すると、近くを通りかかった年寄りが止めに入りました。「まあまあ、どういう事情があるのか知りま…

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巻四 (68)了延に実因湖水の中より法文の事

   これも今は昔、了延房阿闍梨が、日吉神社へ参詣した帰り道のこと。 琵琶湖畔、唐崎の辺りを通り過ぎつつ、「有相安楽行 此依観思」 というお経を口にしたところ、波の中から、「散心誦法花 不入禅三昧」 と、続きの経文句を誦す声が聞こえてきた。  不思議の念を覚え、「いかなる人がおわしますのか」 と問う…

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72夜~火消婆(ひけしばば)

  前編~ 晦 72夜~火消婆(ひけしばば) 火消婆(ひけしばば)は、鳥山石燕による江戸時代の妖怪画集『今昔画図続百鬼』にある日本の妖怪。 人家の中の提灯や行灯などの火を吹き消す、老婆の姿の妖怪。陰気の存在である妖怪は火などの陽気を苦手とするため、その火を消す存在が火消婆だとされる。…

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第52話~お菊ののろい

 むかしむかし、上州(じょうしゅう→群馬県)に、小幡上総介(おばたかずさのすけ)という侍(さむらい)がいました。 とても短気で乱暴な男でしたが、お菊(きく)という美しい女中(じょちゅう)をとても気に入っていました。 ある朝、上総介(かざさのすけ)がお菊の運んできた朝ご飯を食べようとしたとき、ご飯の中に何やらキラリ…

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まんじゅうのためしぎり

 殿さまが、新しい刀を手に入れました。 毎日毎日、刀をながめていましたが、それにもあきてしまい、ある日家来に言いました。「この刀で、一度ためしぎりをしてみたいものだな」「はい。その刀なら、さぞかしよい切れ味でしょうな」「うむ。だが、まさかふく面をして、つじぎり(→刀の切れ味を確かめる為、街頭で人を切る事)をす…

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第8話~牛鬼 大晦日

 むかしむかし、ある海辺の村に、貧乏な夫婦がいました。 二人は毎日、浜に出て魚をとったり貝をほったりしては、それを売ってくらしていました。 ある年の、大晦日の事です。 普通なら仕事を休んで、お正月の支度をするのですが、貧乏な二人はいつもと変わりなく浜へ出かけました。 冷たい風が吹くなか、二人が魚や貝をとってい…

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巻四 (67)永超僧都、魚食ふ事

  これも今は昔。 奈良の都の永超(えいちょう)僧都は、 魚が無ければ、午前も午後も、いっさい食事をされないような人だった。  さてこの永超僧都。 ある時、朝廷の法会のためしばらく京都へ滞在していたが、 その間、魚を食べることができなかった。 そうして、ヘロヘロになって奈良へ戻る途中、 奈島の丈六堂で弁当を食べ…

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第51話~番町皿屋敷

 むかし、江戸の番町のあるお屋敷に、おきくという、美しい腰元(こしもと)がいました。 腰元とは、殿さまの身のまわりのお世話をする女の人です。 お屋敷には、いく人もの腰元がいましたが、殿さまの青山播磨(あおやまはりま)は、おきくが大のお気に入りです。 いつも、「おきく、おきく」と、可愛がっていました。 ほかの腰…

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きいておいた

 庭の梅の木に、今年、初めて、うぐいすが飛んで来て、よい声で鳴いたのを聞いた男が、じまん顔で、となりの家にやって来て言いました。「今、庭で、今年一番のうぐいすの声を聞きやした」 すると、となりの男は、「お前のところは、遅いなあ。おれんところなんざあ、昨日も、おとといも鳴いてらあ」 それを聞いていた、向こうどなりの…

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お花見とは

  「お花見とは」 日本では、毎年春になると、多くの人がお花見をして桜の花を楽しみます。日本人にとって桜は特別な花で、100円硬貨の表側のデザイン、楽曲のタイトルやテーマなど、様々なモチーフとなり愛されているのです。そんな日本の象徴とも言える「桜」を鑑賞するお花見ですが、昔は桜のみならず梅を見る花見も好…

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巻四 (66)白河院おそはれ給ふ事

  これも今は昔、白河上皇が、寝所でお休みになった折、 夢で物の怪に襲われた。「物の怪には、しかるべき武具を枕元へ置くのがよろしいでしょう」 ということで、源義家を召し寄せると、 義家は、黒塗りの檀弓(まゆみ)を一張り献上した。  そうして、その弓を枕元へ立てたところ、 悪夢をご覧になることはなくなった。  上皇…

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第50話~なわ

 むかしむかし、江戸(えど→東京都)に、池城新左衛門(いけしろしんざえもん)という侍(さむらい)がすんでいました。 ある晩、友だちをたずねていってのかえり道、新左衛門が、ちょうど墓場(はかば)にさしかかったとき、「あっ」と、思わず声をあげました。 黒い物が、道の上にころがっているのです。 よく見ると、どうやら人間…

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きりょうじまん

 今日は、暖かい春の日差しが心地よい四月。 上野の山は花見の客で、大賑わいです。 そこへ、大旦那の娘さんが女中(じょちゅう→住み込みのお手伝いさん)を連れて、お花見に出かけました。 この娘さん、なかなかのきりょうよし(→美人の事)なのですが、何かにつけてけちをつけるくせがあります。「ああ、たいしたのはいないね…

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